スリランカ滞在記(29)

「こんなもんか・・・いや、こんなもんさ」

「アーユル・ヴェーダ」、その蠱惑的な響きに導かれるまま、そしてガイドさんの言値のままに受けた二千年以上の歴史を誇るスリランカ伝統的医療。

しかも意味不明な壺や不気味な液体が用意されるなど、施術前の期待値はMAX超え。

劇的な肩こり改善どころか、この薄汚れてしまった精神まで浄化されるのではないかと胸を膨らませていました。

何せ、二千年です。日本において二千年以上の長きに亘り、未だ伝わっているものって蒙古斑くらいなものでしょう。二千年間、淘汰され生き延び洗練されていった技術、それが「アーユル・ヴェーダ」なのです。どんなサプライズがあったとしても不思議ではありません。

ところが、蓋を開けてみると、ハーブオイルを使用した、いわゆるオイルマッサージの域を逸脱していない。白毫(滞在記vol.28を参照のこと)にオイルをたらされるという、プチサプライズはあったものの、全身オイルまみれでヌルヌルになったこと以外、取り立てて特筆すべき技も効果も感じられない。

故に私は冒頭の言葉をつぶやいたのでした。

そこにはいくばくかの失意と、年甲斐も無く過度の期待を寄せてしまった自嘲も含まれていました。

ところが・・・

 

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パンツ一枚で全身オイルまみれになった私は、施術台から降りろと指示され、上の如く、部屋の隅に配置された不可解極まりない箱の中へと案内されたのです。

「せまいのう(困)」

入って思わず出た言葉。

箱の中にはベンチが設置されており、そしてハーブらしき草っぽい匂いが充満しています。小型のサウナか?どうやらこの油まみれの身体を蒸し上げるという魂胆でしょう。

ん?外でなにやらブツブツ言っています。

扉が開いて他の施術台にいた、おいちゃんの一人が入ってきました。

「なんじゃ、せまいのう(困)」

一人でも狭いのに、既に私が入って座ってるんですから、せまくて当たり前。しかも二人共パンツ一枚で油まみれ。空気に「気まずい」という字が浮かび上がって読めるほどです。

しかし、これもまた「アーユル・ヴェーダ」。

オイルマッサージは序章に過ぎなかったのです。「こんなもんか」と知った風なことを呟いた己を恥じるほかありません。おいちゃんもまた仕方なく、観念したようです。なるべく肌を密着させぬよう、ベンチの角に座りました。

ところが・・・

また外から何かブツブツ聞こえてきます。

空気の「気まずい」という文字が「まさか・・・」に変わりました。

案の定、再び扉が開き、別の施術台にいたもう一人のおいちゃんが入ってきました。

「なんじゃあ!せまいのう(怒)」

そらそうですね。狭いサウナの箱の中に油まみれの中年男が二人座っているのですから。平素であれば眼を覆いたくなるような暑苦しいシチュエーション。しかも、そこに並んで座れと言う。平素であれば金を積まれても断るシチュエーションです。

しかし、これもまた「アーユル・ヴェーダ」。これを乗り越えねばミッションはコンプリートしないのです。選択肢は一択。もう一人のおいちゃんもまた、体を捻じ込むようにしてベンチに座りました。

今、パンツ一枚油まみれの中年男三人は互いに肌を密着させて、この小さな箱の中に並んで座っています。しかも、スリランカなんだけれども、箱の密室には三名の日本人です。年功序列の日本文化が自然と発動し、一番年下(42歳)の私がベンチの真ん中に座ることとなりました。右と左とパンツ一枚油まみれのおいちゃん二人(二人とも60代)に挟まれてしまった私。なるべく眼を合さぬよう、身体を動かさぬよう、細心の注意を払います。なんだかやけに肩が凝ってきたなあ・・・

おかげさまで先ほどのオイルマッサージ、すっかりチャラとなってしまいました。

これでいいのか「アーユル・ヴェーダ」よ!!

【続く】

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