前回、広島県立美術館で開催中の「ゴッホ展」に行ってきた旨を書きましたが、常設展のほかに、もう一つ特別展が催されていました。
「アート・アーチ・ひろしま」ーピース・ミーツ・アート!ー
平和をテーマにした絵画展です。盛況の「ゴッホ展」とは対照的。人はまばら。
おかげで・・・
岡本太郎「明日への神話」、レオナール藤田「アッツ島玉砕」、平山郁夫「広島生変図」
写真の中でしか知らなかった、大家渾身の大作をじっくり鑑賞することができました。
その他、海老原喜之助・岸田劉生・イサムノグチなどの有名どころの作品も数多く、見応え十分。
「ゴッホ展」が一芸術家に焦点を絞ったものだったため、絵画・写真・彫刻・陶芸・模型・ファッションとバリエーションに富む「アート・アーチ・ひろしま」は、気分転換にもなり、最後まで興味は尽きません。
また、テーマが「平和」だけに、殆どの作品が戦争や災害、そして原爆・核兵器など、人類の重い課題を背負っており、それらが芸術家の極めて鋭敏な感性によって咀嚼され、作品に昇華されています。その表現の独創性と真摯さに、素直に感銘を受けずにはおれませんでした。
中でも、(不謹慎ながら)いちばん「おもしろいなあー」と思ったのは、入江早耶さんというアーティストの「カンノンダスト」という作品。「観音様の塵」という意味合いでしょうか。
大きなショーケースの壁には雲のような意匠があり、一幅のお軸が掛けられています。そこに観音様らしき方が描かれているのですが、大部分が剥落したようになっており、なんというか痛ましいお姿。
ところが、手前には高さ十五センチくらいでしょうか、小さいながらとても精緻な観音像が住立されています。
不思議な構成ですが、種を明かせばこうです。
【入江さんが消しゴムを買ってくる→掛け軸に描かれた観音像を消しゴムで消す→消しカスが生じる→それをこねて観音様を像で再生する】
驚きの発想です。作者の意図はなんだろうか・・・観音様を消しゴムで消すなんて不敬だ!という意見もおありでしょう。
しかしながら、消しカスという普通はゴミとしか受け取れないものに対して、観音様の「宿り」を見出し、像として再生するという行為には、「かたち」という限定の枠を超えて救済活動を展開する観音様の慈悲心を、芸術家が表そうとしているようにも感じます。
とはいえ、言葉で表現し得ないものを「かたち」として表現するものが芸術作品なら、言葉で表現内容を決めつけるのは不粋というもの。
見る人によって、さまざまな感じ方や気付きがもたらされるであろう、素晴らしい作品でした。
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